耳を塞ぐの。

病院で子供が母親の肩を執拗に叩いていた。

4歳くらいの男の子。

母親が小声で言った。

「後で覚えてろよ」。

男の子はそれでもやめなかったから、母親が叩いて男の子を椅子から落とした。

僕は怖くなった。

 

その後、僕は受付に呼ばれて手続きをしていた。

そうしていると、背後の席に座っていたその男の子がついに泣きだした。

母親は相も変わらず低い声で「いい加減にしろよ」と言っている。

周りは心配げに見つめている。

しばらくそんなやり取りがあって、やがて泣きやまない男の子は母親に強く引き摺られて外に出された。

僕はそっとイヤホンをして大音量で興味のない洋楽を聴き始めた。

 

僕はアレが虐待なんじゃないかとか、そんなことを言いたい訳じゃない。

僕は逃げたんだ。その空間から。

子供から、母親から、周りの目から、病院そのものから。

そして考える事からも。

 

親子って分からない。

相当の確信だったり、あり余るほどの悪意が見えていなければ他人が踏み入るのは難しい。

結局その男の子は自販機で買ってもらったであろう、ジュースを片手に母親の手を握ってニコニコしながら帰った。

母親はずっと不機嫌そうだった。