矢部さんはカッコいい。

僕はボケもツッコミもやっているつもり。
さまぁ〜ず大竹さんや極楽の加藤さんがやっている「どちらにも揺れる立ち位置」が好きなので、多分僕もボケかツッコミ、どちらかに絶望するまではゆらゆらしていると思う。

そんな僕がツッコミの中で好きなのはナインティナイン矢部浩之さん。
僕は元々ナインティナインさんのオールナイトニッポンのリスナーだった。
矢部さんの相方を立てる相槌やツッコミを毎週聴いていた。
ある日、矢部さんはラジオブースから立ち去ってしまった。
僕らの耳には1人の声しか届かなくなった。
4年くらい聴いてるし・・・という長いんだか短いんだか分からないリスナー歴のありもしない圧に押されて惰性で聴き続けた。
でも結局はラジオを消した。1人しか喋らない木曜日は僕にとってもうあの木曜日じゃない。
それくらい僕の中では、ナインティナインというコンビにおいて、矢部さんの存在が大きかったのだ。

矢部さんをカッコいいなぁと思った事。
ダウンタウンさんとナインティナインさんがアカン警察で久々に共演した時、なぜ長らく共演がなかったかというVTRが作られた。

僕はそういう共演NGとか見た事ない組み合わせが好きなお笑い好きゲス太郎。
そんなゲス太郎の間でダウンタウンさんとナインティナインさんの関係性を語る時に必ず通る「チンカス事件」と「パネル真っ二つ事件」。
この事件に触れるのではないかと凄くドキドキした。

あの頃若くしてテレビの王者だったダウンタウンさん。
そんなお二方が何故かナインティナインさんを遠隔攻撃したこの二つの事件。
松本さんが自著の中で「ナインティナインダウンタウンのチンカス」と表現し、ガキの使いでは吉本芸人のパネルを使った企画の際、なんの脈絡もなく矢部さんのパネルが真っ二つに割られた。
これは異常でしかなかった。
ダウンタウンさんは既に王者。どんなに勢いがある若手が出てきたとしても揺るがない王者。そんな王者が何故ナインティナインさんをあからさまにイビる必要があったのか。
その異常を解き明かす時が来たのだ。

しかし結果から言えばアカン警察でチンカス事件もパネル真っ二つ事件も触れられる事はなかった。

ここを解き明かさない事にはこの共演は何も始まらない。そう思っていた。
アカン警察はその大事な部分をなかった事にした。
僕はもう2度とこの異常に触れる人は出てこないと思った。

ところが後に、その避けられた異常に触った男がいた。
それこそが矢部浩之さん本人だ。
SWITCHという雑誌で浜田さんが特集された時の事。
その特集の中で矢部さんもインタビューを受けている。
先輩芸人浜田雅功さんの特集。
そこで矢部さんはさらっとチンカス事件にもパネル真っ二つ事件にも触れていた。
その異常を普通のエピソードのように語っている。

僕は震えた。
当時ツッコめなかった異常に対して、普通にツッコむ矢部さん。
それは某FMDJや某歌手に牙を剥いていた、あの頃の、若手ツッコミ芸人矢部浩之さんのようだった。
だがそれだけではない。
その件を大袈裟に言わず淡々と振り返ったのだ。
それは、まるで甘噛みだが確実に跡は残すようで。
勢いで噛みちぎって軽い騒動になっていたあの頃と比べて矢部さんのツッコミは進化していた。
全ての人を最低限の傷で納得させたのだ。

それ以降矢部さんを見るたび、たまに出る、牙まではいかないけど確実に跡が残る犬歯のような噛みつきを楽しみにしている。
僕は断言できる。矢部さんはカッコいいツッコミであると。